2009年10月12日月曜日

第4回 人・形展 4

宇野亜喜良氏も人形への関心が高く、一見して指人形とは思えない3点の作品にタブローを添えて、小さいながらも舞台的な空間が広がっています。薔薇の模様が描かれた美女の小品は、ベルメールへのオマージュでしょうか、球体関節人形の概念を遊びながら宇野氏らしい官能を感じさせるものです。
概念を自由な造形に表出するのが、ひとがた造形のおもしろさの醍醐味だと思います。その点、ロシアやオランダの作家の発想は新鮮で刺激的です。今回の人・形展では海外勢が初参加、ロシアのサシャ・ペトロヴァの人形は頭部が極端に大きく、いびつだけど可愛いとも思えるバランスがあり、オランダのイボンヌ・フリプシの人形からはファンタジー本場の造形や色使いを見ることができます。ファンタジーという点では、DMで使われた林美登利さんのサーニットの「白蟻姫」は異様で可愛く、かつ白蟻の不気味さに重量感があり、そのミスマッチ具合が写真で見るよりずっと迫力がある力作でした。これは実物を見なければわかりません。丁寧で非常によくできた作品です。
「人・形展」は、素材や技法のアプローチを比較して楽しむには絶好の展示会なのですが、今回の技術レベルは大変に高いものです。江戸張り子の技法に忠実な荒井良氏の仕事の精緻さには、誰もが息をのむことでしょう。中島清八氏のマスクのシリーズ作品も素材こそ現代的なものですが、能面というモチーフを扱い現代人の表情が冷たく美しく切り取られています。それは新井氏の作品や、青野明彦氏のエレガントなマスク作品とともに、繊細な緊張感を会場にもたらしています。