前回の補足を少し。そのようなわけで、今回の「世界創作人形展」の参加作家は先進諸国の人たちということになります。
欧米では「doll」という言葉の制約から、表現や認識に限界を与えられていた欧米のドールアーティストたちは、その言葉からの脱却の試みを繰り返してきました。ひとがたの造形でファインアートを意識する作家には、はじめからクラフトアートの分野で活動し、dollの領域とはまったく交流を持たない人も少なくありません。日本人の私からみると「これは人形」と受け止められるユニークな作品もよく見かけます。
欧米の創作人形は「artist doll」と呼ばれます。ですので、この企画の英語名では、WORLD NINGYOのあいだに、ARTIST を入れるべきでもありましたが、長くなるのを避けたのと、あえてNINGYOという言葉の懐の深みを意識したタイトルでもありました。実を言うと、「創作人形」の「創作」という言葉にも、私には手垢のついた印象があって、なんとか他の言葉がないかと思っています。
ということで、日本は幸い、「人形」という言葉があったので欧米の作家ほどに苦労しないでよかった部分があるのです。dollという言葉がもたらした窮屈さゆえか、80年代から90年代にかけて活況を呈した欧米の創作人形界でしたが、今は若い世代が続いてきていません。先述したシルビアに聞いたら、彼女はそろそろ60代に入ると思いますが、「ヨーロッパは私たちで終わりよ」とはっきり言ってました。アメリカも新進気鋭作家登場!というニュースはあまり聞きません。かえって、私の属しているニアダのニュースレターには、かって交流をした作家やパトロンの訃報が折々に混ざってくるようになりました。
今、若手の作家が輩出するのは私の知る限り、ロシアと日本、韓国くらいだと思います。