でもこの10年来定着してきた、語尾をあげて「ドール」と言う言い方は、人形の愛玩性を特定する意味において、正しい新語だと思います。スーパードルフィーや、ファッションドールが成人の趣味として定着する傾向を支える単語でした。愛玩性は、人形の重要な特徴です。しかし、人形には愛玩の対象に限定されない、歴史と精神文化があります。だから、「ドール」は人形に含まれるとしても、人形の概念をひとくくりに「ドール」と言ってしまうのは、言葉のうえで乱暴なことなのです。
あるとき高名な評論家の方が、その文脈において「人形」というべきところを、最新語を知っているつもりで使ったのか、「ドール」と言ったのを聞いて驚いたことがあります。この方は日本の精神文化や伝統工芸への造詣が深く現代の知識人として知られ、たくさんの著書を出されているのですが、それほどの方でも人形文化に対してはその程度の認識しかないのだと、再認識した次第です。やはり、人形に関しては人形をよく知る、知りたい人が踏ん張らないとならないようです。